更新日:2025/12/3
かかりつけ薬剤師制度を巡る議論に、もう一つの視点を

かかりつけ薬剤師制度を巡る議論に、もう一つの視点を
はじめに
中央社会保険医療協議会(中医協)において、かかりつけ薬剤師の同意取得件数や算定回数について、一部の薬局で不適切な目標設定、いわゆる「ノルマ化」が問題視されているとの報道がありました 。これを受け、制度の在り方を見直すべきだという議論が活発化しています。制度の健全な発展のためには、こうした課題の検証が不可欠です。しかし、その議論の過程で、制度の持つ本質的な価値や、多くの現場で日々実践されている真摯な取り組みが見過ごされることがあってはなりません。
本稿は、特定の個人や団体を批判するものではなく、現在進行中の議論をより建設的なものにするための一つの視点を提供することを目的とします。
「目標設定」と「不適切なノルマ」の丁寧な切り分けを
議論の出発点として、「目標設定」そのものと、不適切な「ノルマ」は分けて考える必要があります。サービスの質向上や普及を目指して組織が「目標」を掲げることは、多くの分野で行われる健全な活動です。かかりつけ薬剤師制度においても、その理念の実現に向けた目標が、薬剤師一人ひとりの専門性向上や、患者からより深く信頼される関係構築への動機付けとなり得ます。
問題の本質は、その目標が患者の利益ではなく、組織の都合を優先した「ノルマ」へと変質してしまう点にあります。重要なのは、現場で行われている目標管理が、かかりつけ薬剤師制度の本来の目的、すなわち服薬情報の一元的・継続的な管理や24時間対応といった、患者の安全と健康への貢献に繋がっているか否かを丁寧に見極めることです 。
一部の事例から全体を判断することへの懸念
一部の不適切な事例が報告されていることは事実であり、それは是正されるべきです。しかし、その一部の事例をもって制度全体の価値を問い直すことには慎重であるべきです。報道によれば、練馬区薬剤師会のように、薬剤師の積極的な介入が地域住民の医療費適正化に貢献したという好事例も存在します 。
議論が一部の課題に集中するあまり、制度の理念を実現すべく奮闘している多くの薬剤師の努力や、制度がもたらす恩恵が社会に正しく伝わらなくなることは、避けるべきではないでしょうか。業界のリーダーシップを発揮する立場からの発言は、特に大きな影響力を持ちます。だからこそ、現場の多様な実態を踏まえ、課題の指摘と同時に、制度の持つ前向きな側面にも光を当てるバランスの取れた議論が期待されます。
需要の増加は、薬剤師の価値向上への好機
現在の議論に欠けているもう一つの重要な視点は、かかりつけ薬剤師への需要の高まりが、薬剤師という専門職の社会的価値が向上していることの証左であるという点です。服薬情報の一元管理、医療機関との連携、在宅医療への参画といった高度な要求は、薬剤師が単に薬を渡す存在から、地域包括ケアシステムを支える健康管理のパートナーへと進化していることを示しています 。
もちろん、制度にはまだ改善の余地があります。患者負担への配慮や、薬剤師の業務負担の軽減は重要な課題です。事実、令和6年度の診療報酬改定では、24時間対応の要件が緩和されるなど、現場の実態に合わせた見直しが既に行われています 。
おわりに
かかりつけ薬剤師制度を巡る議論は、不適切な「ノルマ」の問題を是正するという重要な側面を持つ一方で、制度の発展的な側面を評価するという視点も不可欠です。課題を指摘し改善を促すことと、現場の建設的な取り組みを正当に評価し、その努力に報いることは、決して矛盾するものではありません。
今求められているのは、一方的な批判の応酬ではなく、全ての関係者が患者の利益という共通の目標に向かい、現場の薬剤師が誇りを持ってその専門性を最大限に発揮できる未来を築くための、前向きで建設的な対話ではないでしょうか。
【免責事項】 本稿は、かかりつけ薬剤師制度に関する議論の活性化を目的とするものであり、特定の個人、団体、企業の見解を支持、または批判する意図はありません。記載された内容は、公開情報に基づく筆者の見解です。
参考文献





